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  『先住民族言語のために 』金子 亨著


For Indigenous Languages
  // 危機に瀕する言語の復興
 
    
ISBN4-883234-109-7 C3080     
1999年3月刊 A5判縦組320ページ 定価本体4800円+税

■「危機に曝された言語」である先住民族言語のために言語学者はなにができるのか。この重い課題を背負ってシベリヤを訪ね、研究調査を続ける著者が投げかける21世紀に向けてのメッセージ。シベリヤの先住民族の社会と言語文化を描き出して、 アイヌ語復興の戦略を暗示しようと意図した言語学論集。

[著者略歴]かねこ・とおる:1933年釧路生まれ。東京外国語大学卒業。千葉大学教授(文学部 ユーラシア言語文化講座)を1999年3月退職。著書;『生成変形文法入門』(白水社1972年刊)『言語の時間表現』(ひつじ書房1995年刊) Deutsch-Japanisch im Konyraste (Groose/Heidelbeerg1984-86)

■目次■
第一章 少数者のための言語学  
  第一節 少数者のための言語学     
     ――二一世紀のためのエトノス言語学のプログラム――   
   一 なぜエトノス言語学か   
   二 エトノス言語学のいくつかの原則   
   三 シベリアの悲劇  
  第二節 言語と民族についての覚え書き   
   一 民族にとって言語とは何か   
   二 言語にとって民族とは何か  
  第三節 北東ユーラシア地域の「危機言語」について   
   一 「危機言語」の研究状況   
   二 母語保存率   
   三 危機状況   
   四 ヤクーチア言語法   
   五 言語保持のための最低基準   
   六 復興政策立案の可能性
第二章 少数言語を守る方法  
  第一節 言語を守る方法について     
     ――ルマンチユの経験から――   
   一 はじめに   
   二 ある言語政策ーレト・ロマン語の場合   
   三 少数言語の維持と二言語使用  
  第二節 アルザス語の現在   
   一 『日曜物語』   
   二  フランツ君   
   三 アルザスの戦後   
   四 自 覚   
   五 シソケレ協会  
  第三節 言語の再生     
     ――現代ヘブライ語の経験から――   
   一 言語消滅への嘆き   
   二 ヘブライ語の歴史から   
   三 ペン・イェフダ   
   四 ヘブライ語再生のための苦難   
   五 ヘブライ語復興の歴史的条件   
   六 教 訓  
  第四節 北東ユーラシアの先住民族の言語の未来   
   一 シベリア先住民族問題の原点   
   二 ソ連の遺産   
   三 1991年以降の状況   
   四 先住民族言語のためのいくつかの試み
第三章 エトノスの世紀の言語学  
 第一節 エトノスの世紀の言語学     
     ――多民族時代の言語研究のために――   
   一 前世紀の遺産   
   二 接触論的言語研究への提言   
   三 言語的発想の記述と比較   
   四 類型論の未来とその方法   
   五 基底グランドプランとその表現の多様性  
  第二節 古アジア諸語の用言複合構造の類型   
   一 問題の限定   
   二 古アジア諸語の動詞複合体の特徴   
   三 古アジア諸語の抱合類型  
  第三節 ニヴフ語抱合論争   
   一 「ニヴフ語抱合論争」   
   二 抱合論論争の経緯   
   三 回顧からの展望  
  第四節 トルベツコイ「印欧人問題についての考察」

 

北海道新聞評(1999.5.16)
 ドイツ語学を専攻する著者が本書を執筆するきっかけは、30年以上も前に遡るという。郷里の釧路で古老からアイヌ語を学ぼうとして挫折した経験、道学芸大(現・道教大)の助手時代に故服部健先生を通じて知ったサハリンのニブフ語、留学先のドイツで学生から投げかけられた「言語学はなんのための学問か」という本源的な問いかけも三つだった。
 それから20年が経ってアイヌ語復興の動きに出合い、そこで得た答えが「侵略と植民地化を生き抜いて今は存亡の危機にある先住民族語のための言語学」であった。三
 千葉大 文学部で10年ほど前からユーラシア言語文化論の研究に本格的に取り組み、今年3月に定年退官した著者が積年の課題に真摯に堪える320ページの本書は、盛りだくさんの内容だ。たとえば、フンボルト、サピア、チョムスキーといった言語学の巨星たちとの“対話”から得た21世紀への展望がエトノス(民族)言語学として語られる。
 しかし、圧巻は、「少数者のための言語学」の実践として、サハリン、アムール、シベリア、カムチャツカなどの先住民族語の現状報告と、ドーデの「最後の授業」に出てくる独仏国境のアルザス語やスイスのレト・ロマン語を例に言語保持の政策、ヘブライ語を例に言語復活の方策を紹介した各章だ。アイヌ語の復興を願い、北東アジアを中心としたエトノス言語学の実践に第二の人生を捧げる宣言の書ともいえる。(島)

月刊言語評 1999.Vol.28.No.7  
  長年にわたり少数民族の言語問題について深い考察を続けてきた著者の論文集。国家と言語の関係や消滅危機言語の再生プログラムを考える社会言語学的な研究と、認知的類型論という新しい類型論の流れとを融合させた「エトノス言語学」を提唱し、その一貫したテーマのもとに、これまで発表してきた諸論文に加筆してまとめ上げたものである。  
  取り上げられている言語はレト・ロマン語、アルザス語などのヨーロッパの諸言語、ヘブライ語から、サハ語、ニヴフ語など東シベリアの諸言語にいたるまで広範囲に及ぶが、そのどれもが著者の現地での実見に基づく深い洞察と、歴史的資料の詳細な分析に支えられた読みごたえのあるものに仕上っている。特にアルザス語についての論考は、民族のアイデンティティと言語との複雑な関係に切り込んだ至論であり、同言語についての他者の議論を凌駕している。二一世紀における言語学の新しい方向性を示す論集といえるかもしれない。(中川裕)

 

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