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 『おれたちのカントリーライフ』丹野清志著

いま農村は、ニュー百姓宣言――自分流の生きかたを模索する若き百姓たちの群像。いま農村が動きはじめた。 写真と文で語る現代若者論。
■薄井 清■“農業つぶし”の嵐の中で、「雨ニモマケズ風ニモマケズ」生きている百姓がここにいる。 丹野清志のレンズとペンがとらえたしたたかで楽天的で心のやさしい百姓たちは、“農の営み”で、豊饒な大地の復活を約束してくれる

ISBN4-88323-057-0 C0061 四六判256頁 1988年刊 定価 本体1,800円

〔目次〕
味にこだわる サクッと甘い吉田さんちのトマト 吉田良篤 29歳 兵庫県伊丹市
テニスガ−デン やさしく農をさしだす「のうか」のシャチョー 荒井秀樹 27歳 埼玉県川越市
ハム わがむらは雲夢草原シルクロード 影山祐一 34歳 福島県郡山市
アイデアサボテン つねに時代の感性を捉える 池谷真一 31歳 静岡県浜松市
チーズ 飲む牛乳から食べる牛乳へ 弓削忠生 39歳 兵庫県神戸市
ライブスナック むらの風に青春をうたう 柄沢昭平 32歳 長野県北御牧村
レストラン 厨房から農を見る 笹寿明 27歳 山形県新庄市
マヨネーズ 食の安全性にこだわる 安保鶴美 29歳 秋田県山本町
フォークバンド あぜ道からのメロディー 多田政俊 32歳 小山隆利 32歳 高橋政孝 33歳 岩手県江釣子村 牛の削蹄師 カッコよりも中身だぜ 白石健治 27歳 島根県太田市
彫刻 彫刻と農業の両立をめざす 奥谷俊治 38歳 島根県北条町
劇団 自分たちの声を主張する 佐藤幸一 28歳 秋田県羽後町
農民雅楽 雅楽は暮らしのメロディ 前田秀男 32歳 入木沢操 29歳 山口芳史 29歳 石崎佳郎 27歳 田口徳重 41歳 栃木県大田原市
小説 書くことと耕すこと 長瀬ひろ子 38歳 山形県山形市
肥前唐津焼 自然を知るために作物もつくる 藤田幹敏 38歳 佐賀県唐津市
知床有惜 一見いいかげんふう 百姓のはじめかた 牛田淳一 27歳 北海道斜里町
イワナ岩魚養殖 過疎の村をいきいきさせる 井出章雄 35歳 井出康男 32歳 滋賀県朽木村
森をまもる 森とモーツアルトがわが人生 畑剛 38歳 兵庫県篠山町
ラン 沖縄の将来めざして突進中 安里正明 33歳 大城勝也 31歳 手登根喬 34歳 名護東一郎 38歳 永山盛走 34歳 比嘉正文 34歳 宮里由多加 33歳 沖縄県糸満市
ハーブガ−デン香りの楽園 ハーブを通して暮らしを考える 高津中太 38歳 千葉県大多喜町
農具をつくる できることは自分でしよる 近藤正一 37歳 徳島県市場町
農を想う 農民組織の若きリーダー 山口力男 39歳 熊本県阿蘇町
ネットワーク 暮らしをデザインする 菅家博昭 28歳 福島県昭和村
塾と農園 働く場所が学ぶ場所 小宮山定彦 33歳 小宮山忠明 33歳 長野県坂城町
動物と生きる わが牧場は夢とロマン 柳沢秀一 37歳 栃木県南那須町
むら歩きのメモ 丹野清志

北海道新聞1988.5.30
著者訪問
 変化を始めた農村の意識 都市から農村へ流れる情報量に比べ、その逆は少ないので、都市生活者には農村のことが、なかなか、よくわからない。減反いらい、米価据え置き、フィリピンからの花嫁問題、乳製品や牛肉・オレンジの自由化の動きといった情報をつづり合わせた印象は暗いが、農家の人たちは暗雲の下で緊張を強いられているだけなのだろうか。
  「状況が厳しいのは事実だけれど、打開の道を探る試みも活発になってきています。若い後継者の間で、とくに目立ちますね」。写真家として20年あまり農村を見すえてきた丹野さんは、各地に希望が芽ばえているという。北海道から九州まで、全国の25の例をカメラとペンでルポしてみたのが本書である。 例えば、都会での生活を切り上げて知床の離農跡で農業を始めた牛田淳一さん(27)、埼玉県川越を“軽井沢”にとテニスガーデンを兼業する荒井秀樹さん(27)、ランの切り花栽培にかける名護東一郎さん(38)ら沖縄青年グループなど。ほかにも手づくりハム、アイデア・サボテン、ハーブ・ガーデン、イワナ養殖…と、さまざまな取り組みがある。
  紹介されているそれぞれのカントリーライフから、共通して読みとれるのは「余裕」。片足で大地をしっかり踏まえたうえで、残る片足で自らの夢を追うといったふうで、添えられた写真の表情は明るく、自身にあふれている。こうした若者たちが、恵まれた、ごく少数の例外でなければ、いいのだが。
  「決して突出した存在じゃありませんよ。一人ひとりが地元で孤立しているわけでなく、必ず同じようなライフ・スタイルを選ぼうとしている友人が何人かいるのですから。確かにひと昔くらい前なら、『地道にやれ』と異端視されたでしょうね。農村が意識の面で変わってきている証拠じゃないですか」 農家向けの家の光協会の雑誌「地上」の連載をまとめたもので「食糧のつくり手の顔が見えなくなっている都市の人たちに、ぜひ読んでもらいたくて」と丹野さん。厳しい現実にあって、25の新しい芽が10年後、20年後にどんな実を結んでいるのか、改めて、この人の写真と文で知りたい気がする。 山口勝次郎記者

日本農業新聞1988.6.1
現代農業青年像描く
 フリーカメラマンの作者が、農業つぶしというあらしの中でレンズとペンで、若き農業青年の生き方をやさしく見つめ続けている。 テニススクールを経営する農家の青年社長や、ライブスナックをやりながら、自分の歌で村を明るくしたという若者など、農業で生活しているグループや個人を、作者独特のタッチで取材、まとめている。
 登場している人物は、一見して翔んでいるように見えるがあ実はごくふつうの村人であり農業人。
「違うのは農業を自分の仕事として、自分の暮らしとしてとらえていることだ」と作者は強調する。だから登場する若者には暗さがなく、みんな楽天的だ。 丹野氏の文体は、写真と同じでやさしく気負いがなく、一気に読める。読ませるだけでなく写真集としても十分楽しめる。 農村も変わってきた。自分流の生き方を強く主張する若者が増えてきたことは、毎日をなんとなく農業をやっている者たちへの“刺激”にもなる。本書は今後の農業青年への生き方を示唆している。若者のさわやかな笑顔が印象に残る。

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