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 『アイヌの国から●鷲塚鷲五朗の世界藤本英夫著

■北海道で“アイヌ”を誇り高く生きた男の生涯を通じて、現代の日本人 <シヤモ> の在りようが問われる一ひとりの老翁<エカシ>から真のアイヌ世界が浮き彫りされる。       
ISBN4-99323-059-7 C0023  四六判220頁 1986年刊 定価本体1500円+税

 

 

 


目次
ヒバリの記憶  
 位牌 鷲塚鷲五朗エカシ ヒバリの子 手づくりの棺 白い骨箱 待つ間 骨を拾う
イチャルパ(慰霊祭)   
  その朝 コロボックルとアイヌの墓 イナウ 月あらそい 腰ひもとふんどし コタンコロクルの条件 葬式  言霊の世界 
映画『アイヌの葬式』   
  シヌエ 純アイヌ エカシの大芝居 捨て身の自信 試写 怒り
三人の女   
  パテキフチ 最後の夫人 「鷲五朗のとこにいたとき」 燃えあがる小屋 二人のエカシを結ぷもの タケミツ の記憶 「シヤモ負けたァ」
シャクシャイン祭   
  プロローグ ムチャクチャでござりまする アイヌ・ブーム 新しいシヤクシャイン祭 アイヌだけの国 三枚 の賞状
アイヌ世界の証明   
  強情ッパリ エカシの父 隠れキリシタンの里 ゴールドラッシュ 山丹交易 
鷲塚家のウチャシコマ〈家史)   
  ローレライ 人別帳 後期幕領時代の幕あけ 強制のにおい 松浦武四郎とコタンカタ 人別帳の年齢 エカシ の家族
アイヌと和人の接触   
  和人の血 和人支配の浸透 鷹侍と金丁
おおらかな笑い   
  熊狩りの話 宴 一人前の男 一番大事な女 山の案内人
金の道   
  鉱山師たち アプカサンべの金鉱 中等寺金色堂 ジパング
消えた世界   
  美事な終末 墓碑
別章 近代のなかの「アイヌ」   
  先住民族 式辞 百年記念塔 北海道旧土人保護法 アイヌ文化への外圧 廃止の動き 少数民族アイヌ 
  アイヌ史の復権

1986.7.21
北海道新聞
歴史と文化の組み合わせ
 
 他人の事績を掘り起こし書き綴るということは容易なことではない。どんな人間にも、第三者には不透明な世界が、生きた時間の背後に広がっているからだ。この本は、そうした至難さを、鷲塚鷲五朗エカシ(アイヌ文化の伝承者で、かつ著者のアイヌ研究のバックボーンになった人)のドラマチックなエピソードに、アイヌ史とアイヌ文化を巧みに組み合わせることによって克服している。その組み合わせ方がとりわけ鮮やかなのは、鷲塚姓のルーツを、鷲塚鷲五朗エカシの原稿を始めとして、最上徳内の「渡島日記」、玉虫左大夫の「入北記」、松浦武四郎の「廻浦日記」「東蝦夷日誌」、知里真志保の「地名アイヌ語小辞典」及び静内町農屋に建っている「明治三年建之」の石碑文や場所請負人作成の人別帳等の史料を駆使して追求しているくだりである。この中で、著者は、和名は同化政策のあらわれであるが、しかし、多分に強制の可能性があるとした上で、鷲塚家の系図にふれてこう云っている。 「ここにも歴史の奥深いところにうずくまっている人間の郡がいて、果せなかったロマンが怨念になっていそうな気がする。鷲塚姓はそんなロマンにつながっているのかもしれない」。 巻末に、別章として「近代のなかの『アイヌ』」が付記されており、開道百年記念行事や旧土人保護法とアイヌ新法を介して、近代アイヌがかかえている問題が浮き彫りにされているが、この本は鷲塚鷲五朗の世界を通して描かれたアイヌ文化史ともいえよう。(須貝光夫・「コプタン」主宰)

1986.7.15
北海タイムス
誇り高きエカシの生涯描く

 著者は道埋蔵文化財センター常務理事。日高管内静内町で、昭和40年4月27日、73歳で他界したアイヌの長老、鷲塚鷲五朗氏の生涯を描いている。 著者は、昨年4月から8月まで、本紙文化欄に『あるエカシ伝』を連載した。今回の著書は、その連載に全面的に手を加えている。 著者は、道立静内孝行教諭時代、鷲塚鷲五朗エカシと親交を持った。エカシとは、アイヌ語で、長老を呼ぶときの言葉である。そのエカシは、著者に大きな影響を与えたようで『鷲五朗エカシのアイヌ世界との触れ合いが深くなるにつれて、私は自分の中で失われていたものに再会したように思うことがたびたびあった』と述べている。 鷲五朗エカシは、明治26年12月5日に生まれている。豪快で太っ腹の親分肌らしかったようで、『彼の世界には、私を拒否する一線があった』としている。その鷲五朗エカシを、著者は温かい目で見つめ、アイヌ・モシリ(アイヌの国)に生きた誇り高い男の生涯を、いろいろな角度からペンを進めている。『鷲五朗エカシを問い直してみたのがこの一冊である』という。

1986.8.29
山陰新聞ほか
新刊紹介

 エカシと呼ばれたアイヌの老翁、鷲塚鷲五朗の追想をつづる。エカシとは、アイヌの言葉で祖父、先祖の翁を意味する。 著者は北海道埋蔵文化財センター、北海道文化財研究所各理事。先史時代の墓制研究の助けを求めてアイヌ世界に近づき、鷲五朗エカシに出会い、やがて研究テーマを離れて彼らとの触れ合いを深めていく。 コタンコロクル(首長)に必要な器量、度胸、雄弁の3条件を備えていた鷲五朗エカシ。アイヌの、ほほ笑ましくおおらかな文化。そして強制と外圧支配の歴史。73歳で死んだ1人の男と、彼が愛したアイヌ世界を、情感におぼれることなく淡々と描いている。

 

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