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 銀のしずく降る降るまわりに―知里幸恵の生涯藤本英夫著

■知里真志保の姉であり、寄寓先の金田一京助宅で十九歳の生涯を閉じたアイヌの閨秀・知里幸恵。世界が先住民族の人権に注目する現在、「私はどこまでもアイヌだ」という真摯な魂が甦る。    
ISBN4-88323-075-9  C0023  四六判1991年刊 定価本体2,000円+税

●目次●
1 アイヌ神謡集 アイヌの少女/梟の神の自ら歌つた謡
2 まわりの人びと バチラー・八重子の印象/松葉杖のマリヤ/二人姉妹
3 グスベリのころ 両親の出合い/旧土人保護法/其の昔此の広い北海道は……
4 笹竹の子の季節 近文というところ/一枚の写真/笹竹の子
5 かすりの着物 コケコッコ花/子供の熊まつり
6 消えていく笑い 区立女子職業学校/一人静か/おもて向きでない顔
7 アイヌの世界 描の子のいる風景/ユーカラを求めて
8 「近文の一夜」 入れ墨/Ponno mokor mokor
9 月日の小車めぐりめぐりて ツゲの木、50年/三代の歴史の中に/母校、おでん、サラダ、蘇軾の詩
10 『ウタリグス』 クジャク神が自ら歌った謡/Pon Okikirmui/ペナンペとパナンペ/近文便り
11 おだまきの花 おだまきの花/愛するアイヌよ
12 銀のしずく 降る降る まわりに 蘆丸の曲/つくしんぼの歌/銀のしずく 金のしずく
13 知里幸恵 その後

1991.7.14
日刊旭川新聞
4半世紀の研究結実

  アイヌ民族の研究者で知られる藤本英夫さんが、民族に伝えられる叙事詩・ユーカラを初めて日本語訳した「アイヌ神謡集」を残し19歳でこの世を去った知里幸恵さん(1903〜1922)の“人と世界”をつづった、「銀のしずく降る降るまわりに」を出版した。「少数民族のすぐれた文化を記録した幸恵さんの仕事は、全国レベルで語られつつある」と話す藤本さんは、昨年、北門中学校(市内錦町15)に完成した知里幸恵文学碑建立の呼び掛け人の一人。言語学の分野で先駆的役割を果たした旭川ゆかりの少女の実像を、4半世紀の調査研究で結実させたノンフィクション、大きな反響を呼びそうだ。
  出版された「銀のしずく降る降るまわりに」は、1973年(昭和48年)刊行の「銀のしずく降る降る」(新潮社)を、新たに見つかった手紙・資料や証言をもとに大幅に加筆訂正、昨年6月8日、幸恵の87回目の誕生日に除幕された文学碑にまつわるエピソードを最終章に加えた。神謡集の一部を収録している。
  考古学が専門だった藤本さんは、幸恵の6歳違いの弟、「アイヌ語入門」「分類アイヌ語辞典」の著者で知られる文学博士知里真志保(1909〜1961)の足跡をたどる研究の中から、真志保の業績、生き方に大きな影響を与えた姉幸恵に“出会う”。65年(昭和40年)ころのことである。
  89年に、教育出版の「中学国語1」の「人間の生き方」の単元に、藤本さんがこの教科書のために執筆した「銀のしずく降る降るー知里幸恵の生涯」が収録され。旭川に幸恵の文学碑を建立する運動のきっかけにもなった。新潮社版「銀のしずく」は絶版になり、藤本さんのもとには、もう一度入手しやすいようにできないか、という声が全国から寄せられるようになる。
  第1章「アイヌ神謡集」から、第3章「知里幸恵 その後」まで、4半世紀におよぶ幸恵へのこだわりはをまとめ上げた藤本さんは、その後書きの中で「人間、死んでも“一巻の終わり”にはならない、ほかの人間のなかで生きる、それもただ生きるのではなく成長する…私のなかの知里幸恵がそうである」と述懐する。
  先月8日には、文学碑の1歳を記念して「第1回・銀のしずく降る日」に集いが開かれた。旭川ゆかりの少女が残した一冊の本をめぐる波紋は、先住民族の人権や環境問題が地球規模で注目を集めている今、静かに、しかし確実に広がっている。

参考:草風館版
『銀のしずく―知里幸恵遺稿』

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