■大家族に囲まれて結婚生活を全うした著者の母や、平凡ながらしたたかに生きた明治生まれの女たちの生きざまを愛情あふれるしっとりした文体で綴った明治おんな物語。佐久文化賞受賞。
ISBN4-88323-090-2 C0095 四六判1996年刊定価本体1,942円+税
■目次■
冬の日の暮れるまで
春の午後
ひるげどき
土に帰る時
あとがきより
おはなしの本を書いてみたい、というのは、私の夢でした。
お話、というのは子供のお話、童話のことです。
夢はあくまでも夢です。実際にどうすれば本ができるか、などと考えたこともありませんし、そうしたい、と思っていたわけでもありませんでした。
私のお話は、私の頭の中でどんどん進行し、結末を迎えたり迎えなかったりして、いつか消えて行きました。そうして、気が付いたら今はもう私自身の結末を考えるところに来ています。
思いがけなく本が作れることになりました。
本を読む人が大変少ない御時世なのに、なぜか本を出す人がいっぱいのこの頃で。
そんな中で本を作るのは、たいへん心苦しいのですが、どうかお許しください。
ここに集めたお話は、夢の中の物語ではなくて、現実のお話です。少なくとも現実に 沿ったお話です。今、本にするならこの現実のお話を、と思いました。
ほんの少し前の時代を歩いて行った人たちが、どんな景色を見て通ったのか、私が興 味を募らせたのは、母が死んでからでした。知っているつもりでいたのに、本当は何も
知らなかったことが分かったからでした。
母親を失った時、いい年をして私は情緒不安定に落ち込みました。
町の維路を歩いていて、ふと気が付くと、見知らぬ老婦人の危なげな歩みをかばうよ うにして歩いている自分に気づく、ということが再三ありました。無意識のうちにその
人の中に母を見ていたのでしょうか。
やがて、いつの間にかその世代の人の話に耳を傾けるようになりました。
それぞれがみな、花の命、と思います。
お読みくださってありがとうごぎいます。地味な花を咲かせた人たちの肖像が、少し でもお伝え出来ましたら幸せです。
最後に、原稿に目を通してくださって、私の聞き間違いや、記憶違いを丹念に訂正し てくださつた「ものがたりべ」の皆様に心から厚く御礼を申し上げます。
一九九六年弥生
坪井三笑子
1996.8.17
週刊東洋経済
この夏に読む200冊の本
猪瀬博 学術情報センター所長
第三章「ひるげどき」は、女流芸術史家の草分け、白畑よし女史のさわやかな語り口を活写。中世の絵巻の含意と絵解きする学識と創造性に感嘆。
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