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 『アイヌ語沙流方言辞典』田村すず子著

■ アイヌ語学の最高権威ガ膨大な音声資料から編纂した待望久しいアイヌ語辞書。
【特色】見出し8400語・ローマ字見出し・アルファベット順・カタカナ表記併用・語構成分解表記・見出し語に英語訳
A5判  934ページ  95年刊 2刷出来 定価 本体18,000円+税



アイヌ語は私達に無縁のことばでない
(抄)
                 映像作家 片山龍峯
 早稲田大学教授の田村すず子氏の編んだ『アイヌ語沙流方言辞典』について。田村すず子氏は日本で最も豊富な経験を持つアイヌ語研究者であると同時に、アイヌ語教育の草分け的存在でもある。田村氏の辞典の特色は、一つ一つの言葉が文法的な観点から精密に記述されているのと同時に、アイヌ語を体系的にわかりやすく理解できるようにという配慮も行き届いている点であろう。また、辞典の中に原資料である話者の元の言葉がきちんと残されており、資料が自ら語るという構造になっていて、実に信頼のおける辞典である。その上、テープマークの付いている言葉は、今まで田村氏が長年刊行し続けてきた音声資料テープで聞くことができるように考慮されている。見出し語9400項目、5000を超える用例、さらに品詞分類や「参考」として懇切ていねいな解説が付けられており、今これ以上望み得ないような充実した内容になっている。この辞典を最初に手にした時、その分厚さ(本文876ページ、文法解説など34ページ)と、ぎっしりとつまった中身の濃い訳や解説のすばらしさに圧倒されてしまった。
 田村氏がワテケ、サダモ姉妹から言葉を採録した40年前からアイヌ語はごくわずかな人々によって受け継がれ、しかし、粘り強く生き続けてきたことをあらためて知らされるのである。アイヌ語辞典の刊行を最も喜んでいるのは、これからアイヌ文化を受け継いでいこうとしているアイヌの人たちだろう。こうした人たちとシサム(和人)の切なる要望が田村氏を衝き動かし出版に踏み切らせたという。  さきに三内丸山遺跡についてふれたが、サンナイというアイヌ語地名は東北だけでなく、北海道にもある。この縄文遺跡の立地条件の解明には、アイヌ語地名の解読という側面からも貢献できるのではないかと私は考えている。東北や北海道にあるアイヌ語地名に関心を寄せる人々にとっても、また、アイヌ民族や文化に関心を抱く人々にとっても、二つの辞典は互いに補い合って大いに役立つはずだ。高価なものだけに個人で購入するのをためらう方は、最寄りの図書館や研究機関に備えてもらうよう声をかけてみてはいかがだろうか。               週刊金曜日 1996年11月22日号


【組例】
yayrenkayne ヤイレンカイネ 【副】[yay-renkayne 自分・の意図によって]勝手に(断わりなしに、自分の意のままに)。 yayrenkayne e yan ヤイレンカイネ エ ヤン 勝手に(ご自由に)食べて下さい。(S) hnta kus yayrenkayne e=kor wa e=arpa? ikka koraci フンタ クシ ヤイレンカイネ エコロ ワ エアラパ? イッカ コラチ なぜ勝手に持って行くの、どろぼうするみたいに。(S) {E: as one likes, pleases.}
yayrerap ヤイレラプ 【自動】[yay-rerap 自分・(?)] なげき話をする。 {E: to talk of sorrowful things.}
yayresuppo ヤイレスツポ 【名】[yay-resu-p-po 自分・を育てる・もの・(指小辞)] 孤児。 {E: an orphan.}
yayrire ヤイリレ 【自動】[yay-ri-re 自分・高くなる・させる] 背伸びする(立っているときだけでなく座っているときでも、腰を伸ばしてできるだけ高くなるような姿勢をする)。 {E: to stretch oneユs body.}
yaysama ヤイサマ 【名】[< yay-sama 自分・(< の側)]ヤイサマ、即興歌、叙情歌、民謡。 (歌謡のジャンル名の一つ、心に浮かんだことを韻文にして自分のふしで歌う。 即興歌の中で、yaysamanena ヤイサマ  
ネナ というはやし言葉を持つもの)。 ☆参考 歌謡の中で、一人で歌うものはほとんどが即興詩(即興歌)である。 その多くが yaysamanena ヤイサマネナ と言うはやし言葉のくり返しを持ち、このジャンルに入る。 その中には叙情歌が多いが、すべてそうとはかぎらない。 昔は会ったときの歌、別れるときの歌、喜びの歌、悲しみや嘆きの歌、恋の歌など、そのときそのときに即興的に歌われたという。 即興歌の中でも恋の歌は yaykatekar ヤイカテカラ、嘆き歌は、iyohay-ocis イヨハイオチシ と呼ばれる。 また子どもを寝かしつける子守歌も、即興的につくりながら歌うが、これは iyonruyka/iyonnokka イヨンルイカ/イヨンノッカ と呼ばれる。 あるときある人が即興的に歌ったヤイサマが好まれて広く伝えられ愛唱されて民謡となることもあり、そのためこの語は「民謡」と訳されることもある。 その場合でも、それを歌う人はそのときそのときに即興的に変化をつけて自分の歌い方で歌うのが普通である。 ☆参考 沙流川中流の人が使う名称。 下流の人は yaysamanena ヤイサマネナ と呼ぶ。 m
yaysamanena ヤイサマネナ 1 【名】[yay-sama-ne-na 自分・(< の側)・だ・よ] ヤイサマ、即興歌、叙情歌、民謡(歌謡のジャンル名の一つ。 心に浮かんだことを韻文にして自分のふしで歌う即興詩(即興歌)の中で、yaysamanena ヤイサマネナ というはやし言葉を持つもの)。 ☆参考 沙流川下流地域で使われる名称。 中流の人は yaysama ヤイサマ と言う。 yaysama ヤイサマ {E: an impromtu song; a folk song.}
yaysamanena ヤイサマネナ 2 【間投】[yaysama-ne-na ヤイサマ・だ・よ](yaysama ヤイサマ または yaysamanena ヤイサマネナ と呼ばれる種類の即興歌で使われる、はやしの折り返し。) ☆参考 語源は恐らく《自分のことだよ》、つまり自分の心の内の思いだよと言うことであろう。 しかしいまはそういった意味は意識されておらず、出だしの yay ヤイ の部分が落ちて samanena サマネナ だけが言われることもあるほどである。 

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