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 『アイヌ語地名の研究 3』山田秀三著

■北海道・東北地方のアイヌ語地名の分布・系統を解明した山田地名学の宝庫■
第3巻◎北方史の旅(一)◎ 
A5判 縦組 368ページ 1995年刊     
コード ISBN4-88323-084-8  C3325     
定価 本体5825円+税

       ◆目次より◆
【第一部】
東北地方のアイヌ語地名▼
東北と北海道のアイヌ語地名/
十三潟のアイヌ語系地名/下北の旅の記録/津軽半島の記録/
津軽の犬村の記録/コンナイという地名/東北のアイヌ地名の旅

【第二部】
北海道南部のアイヌ語地名▼
北海道の旅と地名‖函館−室蘭−札幌/
登別・室蘭のアイヌ地名を尋ねて

 

■1983.6.20■
朝日新聞 
調査重ね厳密な解釈
平易な文章で興味深く

〈読書欄〉

 
「私の弟子であり師匠である」(故知里真志保氏)、「空前絶後のアイヌ語地名研究家」(服部四郎東大名誉教授)―同学の人々をしてかくいわしめた在野の研究者、山田秀三氏の「アイヌ後地名の研究―山田秀三著作集」全4巻が完結した(草風館)。小冊子に発表されてきた同氏の文章や論文がまとめて公刊された意義は大きい。 よく調べると北海道では溝のような小川にまでびっしりアイヌ語地名がついている。漁業や狩猟で暮してきた民族らしく、そのほとんどが地形からつけた地名である。 語尾に「ペッ」(一般的に大きな川の意)、「ない」(一般的に小さな川、沢の意)、「ウッシ」(××が群在する所の意)がつく地名が、アイヌ語地名の半分以上を占めている。青森、岩手、秋田の東北3県の主として山間部にも無数のアイヌ語地名が残っている。 津軽海峡をはさんだ北海道側と青森側には、同じアイヌ語地名の土地がたくさんある。これは北海道と東北の北半部が地名上は切れ目のないアイヌ語地名地帯であり、東北に住んでいた「エゾ」がアイヌ語族だったことを示している。 以上が山田秀三氏の研究の要約である。
この著作集の第4巻には7000余のアイヌ語地名の索引がついているが、こうした研究の結論は氏の丹念な現地調査と独学で習得したアイヌ語による厳密な地名解釈に裏付けられたものである。 アイヌ語地名研究者としての山田氏の経歴は変わっている。戦前は軍需省化学局長まで務めた一高、東大卒のエリート官僚だった。昭和16年、仙台鉱山監督局長だったとき、東北各地を歩いて日本語では意味がわからない風変わりな地名があることに興味を持った。 昭和24年、北海道登別に設立された北海道曹達会社の社長に就任、こんどは道内のアイヌ語地名の調査を始めた。この時期に金田一京助、その弟子のアイヌ人言語学者知里真志保両博士の知遇を得た。初めて金田一氏を訪れたとき、東北のアイヌ語地名に関する山田説を披露すると、博士の目がギラギラ光り出したという。 山田氏はアイヌ語地名の群在の南限を、秋田、山形の県境と仙台北部を結ぶ線としている。奈良時代初期の和人政権と「エゾ」勢力圏との境界に一致するという。富士山のアイヌ語起源説や語路合わせ的な解釈はきびしく排している。 83歳の現在も東京都大田区の洗足池に近い自宅と北海道を頻繁に往来して研究と調査に没頭している。 「松浦武四郎や永田方正が大きな遺産を残してくれた。金田一先生や知里君がそれを机の上の研究で深めた。僕は現地調査をやったんだ」 「なにも天下に自慢する気はないのよね。要するに自分の道楽なんだから。でも骨とう道楽だってニセ物つかまされたらいやでしょ。僕も自分の道楽でニセはいやだから、調査と解釈にはうるさいの」 「本来の目的は東北の古代史でね。アイヌ語地名の研究は、それに到達する手段としてやったんだけど、もう残り時間が少なくなっちゃって」 著作集の中での珠玉は、第1巻に収められている「アイヌ語種族考」(昭和47年に発表された論文)といってよいだろう。アイヌ語地名との出合い、金田一、知里両博士との交友を語りながら、簡潔に研究の成果をまとめている。 アイヌ語の研究を通してアイヌ民族のこころを語った書物として、知里真志保博士の「アイヌ語入門」(昭和31年刊)と比肩しうる文章ではあるまいか。かつて大江健三郎氏は「アイヌ語入門」を「精神の力をはらんだ闘争的な本」と評したが、「アイヌ語種族考」からは研究者の無垢のこころが伝わってくる。 山田氏の著作の特色は、平易な文章にある。アイヌ語地名にせまっていく旅行記的、かつ推理小説的面白さも手伝って、部外者にも興味深く読める。北海道や東北の北半部が「アイヌモシリ」(アイヌの国土)であったことを、読者は素直にさとらされるだろう。


参考:草風館刊/山田秀三著
「アイヌ語地名の研究」1
「アイヌ語地名の研究」2
「アイヌ語地名の研究」4
「東北・アイヌ語地名の研究」
「アイヌ語地名の輪郭」

 

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