書籍のご案内(991110現在)
 『聞書水俣民衆史 第4巻 合成化学工場と職工岡本達明編著

■ 語りつがれた水俣の歴史/ 肌にしみこんだ時代の記憶がよみがえる■
●すいせん者●
色川大吉/太田薫/緒方登/鎌田慧/姜在彦
田上義春/立松和平/富樫貞夫/原田正純/星野芳郎
1990年毎日出版文化賞特別賞受賞◆  
A5判 縦組 320ページ 1990年刊     
コード ISBN4-88323-033-3  C1022     
定価 本体3000円+税

      
◆第四巻/目次より◆
第一部 とんでもない暴れ鴇――技術と労働   
一 アンモニア合成工場         
輸入高圧技術とそのスタート    
はじめての高圧熔接    
技術者も爆弾三勇士と同じ    
運転する度胸●正面に居れば命の仕舞い/組長の創意工夫    
アンモニア合成工場の運転    
計容器の運転●水素と窒素の混合ガスを作る/どうやってガス比例を維持調節するか    
圧縮機の運転●人間より機械が偉い/事故さえなければ楽も楽/爆弾の上に乗っとるのと同じ    
合成塔の運転●どうやって合成塔を運転するか/カンとは「先を読む」こと/きついか楽かじゃなくて自分の力で仕事に差が出るかどうか/労働仕事との違い/作業日誌のごまかし
合成工場の職工と教育●秘密工場/いわれた仕事さえしとれはいいんじゃ/職工像/幹部職工の養成  

二 酢酸工場   
自社技術の開発と設計の教科書    
最初の研究者の回想●「爆発しても装置が壊れてもかまわん」/私のアセトアルデヒド研究/スケールアップには、理論が必要     ハンドブックが唯一の頼り●アセテートを目指して/橋本設計ノート/やってみて失敗だったら何回でもやり直す    
アセトアルデヒド製造現場――毒・劇物曝露と運転    
設計通りにいかない●分溜器は熱量不足、精溜塔は段数不足/熟硫酸液吹〈酸化槽/母液の劣化、困雑な連続運転/続出した硬鉛ポンプの故障/作業着は一日でポロポロ    
アセトアルデヒド製造機器の運転●生成器の運転/分溜器の運転/分溜器の作業環境/機器の運転で一番苦労したこと/人に負けるか    
毒・劇物曝露の現場●散乱する水銀/アセトアルデヒドで手は真っ赤/命をはめる/分析工は次々死んだ/設備をよくするより、人間殺した方が安い  水銀のソファと廃水溝●水銀は遊び道具/悪い物、汚い物はすべて廃水溝へ 職工物語●三の三乗と200℃/百姓の息子   
酢酸製造現場――恒常的爆発と運転    
酢酸合成器の運転●通り抜けできないぐらいの悪臭/恐ろしい運転スターと終了時/一番きついのは眠いこと――/三交替の運転工が勤まるかどうか  盛大な花火●火の海/火はアセトアルデヒドまで及び    
爆発で重傷を負った労働者の述懐●アセトアルデヒドの引火爆発/怪我の中に飛び込んで行った/酢酸マンガン反応器の爆発/心の持ち方/会社の怪我は怪我損    
酢酸精・蒸溜器の運転と製品瓶詰め●楽な操作、充満する酢酸ガス/そりゃ食っちゃいかんぞ/製品瓶詰めの女工たち   アセチレン製造現場――肉体労働とアセチレンの大爆発    
アセチレン発生機の運転●まだ熱いカーバイドの塊を手でコンペヤに載せる/原始的な精製法/発生機の爆発とア セチレンガスの吸入   
大惨事●死亡一名、重軽傷二十数名/九死に一生を得る/兵隊といっしょ、戦争といっしょ    
カーバイドの泥●馬の小便よりまだひどい/貝の海からヘドロの海に    

三 塩化ビニールパイロット工場   
日本で最初の塩化ビニール工場    
塩化ビニールの基礎研究からレドックス反応の発見まで●合成化学への初志/塩ビの研究を始める/デスク実験まで/工業化を前提にした中間試験での苦労/パイロットプラントの建設/パイロット工場の操業とその後の研究/技術と労働についで    
塩ビバイロット工場の運転    
塩ビ工場労働の原型●組長の評価――90点/発生機の運転/反応器の運転/重合器の運転と乾操作業/戦時下の人手不足と空襲

第二部 古きよき工場――身分制と職工  
一 権力の領域   
ほう、砂糖が歩いて釆たよ    
天皇陛下か殿さん●生殺与奪の権/係長の味u汁/桃色事件    
始業のサイレン●日曜日/ブランコ/発電所の子供/親父とその死    
奥さんの便●ボーイ物語/身分制下の労働条件    
戦前唯一のストライキ●工作職人の世界/一回めのサボタージュ/二回めのサボタージュ/三回めのサボタージュ  
二 自由の領域    
吾が名 和楽水俣工場●会社に思いを寄せる気持/インスイの油    
俺家の係●組長は親父/横のつながり    
職工の楽しみ●本格的演劇/陶酔的係対抗野球/係のスターたちの工場生活    
広がる舞台●尚和合/全国相撲大会で優勝/豚饅頭と生卵
 
三 朝鮮人の領域    
重労働職場に朝鮮人が釆た●職工なき工場/カーバイドト係の朝鮮人/飯場/アアジュン ジンゾ チョプソ ミッカ    
朝鮮ピー●俺の初恋/俺の終戦

第四巻「合成化学労働者の誕生」1935〜1945年頃▼生命を失ったかに見えた水俣工場は、どうなったか。合成化学工場として、不死烏のように、よみがえつたのである。それどころか、軍需工場として、昭和 一二年頃から、新たな発展画期を迎ぇる。従業員数昭和六年約一二〇〇名、昭 和一八年約四〇〇〇名。村が、われわれの故郷とすれば、工場もまた、もう一つ の出発点であるに違いない。現在が、そこから生まれた場所。事実、近代的化 学工業は、合成化学の成立と共に始まつたのである。これには、二つの意味が ある。第一は、技術の近代性であり、第二は、労働の標準単純化である。合成化 学になって初めて、肉体労働から離れ、計器監視、弁操作労働が中心になる。 ▼本巻は、合成化学工場の誕生と、発展の経経を追う。新しい技術は、どこから 来たのか、その思想は何か。外国から買ってきた技術により、水俣にアンモニ ア合成工場が建つのが、大正一五年。それから約一〇年の間、ゼロから出発し て、カーバイドーアセチレン有機合成化学の開発が、自社技術で進められる。 技術者にとつでは、胸躍る時代であった。しかし、その工業化は、技術的に未完 成のまま行われ、労働者はたちまち、激烈な爆発事故と、深刻な蕃物暴露に遭 遇する。多くの労働者が、死傷を負うか、健康を侵されるか、病死した。 ▼それでは、計器監視、弁操作労働は、労働者にどういう問題を生んだか。標準 単純労働自体に喜びはなかった。熟練や、勘が必要とされ、競争関係になる場 合にのみ、労働者は、仕事を面白いと感じた。換言すれば、労働の喜びは、技術 の未熟性の裂目にあった。 ▼本巻は、1アンモニア合成工場 2酢酸合成工場 3塩化ビニール工場を対 象工場として選び、技術者と労働者の双方からの聞書により、以上の問題を調 べる。誰も垣間見ろことのなかった化学工場について、労働者自らが語る、さ さやかな記録として−。

■1990.11.5 ■
週刊読書人 
村が崩壊し水俣病の前兆が
   アジア各地でくり返される危険性 
原田正純
 
『聞書・水俣民衆史』がこの程、刊行が完了した。それは私にとって、待ちに待ったエキサイティングな仕事であった。よくいわれることに「水俣はチッソの城下町」「チッソは水俣の殿さん」というのがある。すなわち、チッソの存在がこれら差別の根源とする一つの表現である。また、工場内の労働者差別、朝鮮における人種差別、それがチッソのもつ独特の特異な体質のように理解されているところもある。確かに、チッソの水俣市における経済支配はのちに政治的支配となり露骨な収奪ついには精神的支配すら確立していく。工場内の人命軽視や差別が地域社会にまでもちこまれ、興南工場内における朝鮮人に対する処遇にはすざましい人権無視があったことも事実である。しかし、同時にこの聞書を読んでいくとものごとはそう単純でないこともわかる。  国家そのものの成立や近代化の流れの中で差別は変容し、重積したり、分離したりしていく様が民衆の側からみるのでよくわかる。そして差別は人間の本質かと疑いたくなる程の根の深さをもって迫ってくる。少くともチッソが差別をつくったのではない。近代化の歴史の中でチッソが差別を具象化し水俣病をおこした。  宜塋定かならず兇箸い錣譴觚渋紊任海里茲Δ別噂阿梁Δらみることが、先ゆきに光をあてることにならないだろうか。  水俣でかつてのアジアの典型的村が崩壊し、近代化されていくとき水俣病の前兆があった。今、アジアの各地で同じことがくり返されようとしている。私たちは近代化の中でどのようにして水俣病にたどる道を歩いたか、これらの国々に正しく伝える義務があるように思う。



参考:草風館刊全5巻
「聞書水俣民衆史」1
「聞書水俣民衆史」2
「聞書水俣民衆史」3
「聞書水俣民衆史」5

                       ホームに戻る                     
                           

MAIL to WebMaster